夏侯紗別伝(エピローグ)



「…お前の強靭な精神力と生命力は尊敬に値するよ」

夏侯惇が言った。

「そりゃどうも」

夏侯紗が返答を返した。



ここは樊城。

華容から江陵に到着し、それから襄陽で小休止をとった。
そして、そこから漢水を越え、ここ樊城にたどりついたのである。
紗はその間、よく持ちこたえた。
それは、樊城に診察に来た医者をも驚かせたほどの生命力のなせるワザであった。

そして、曹操と一部の将は一足先に北へと帰り、紗は彼らより遅れて帰還することになっていた。

「…人を化け物みたいに言うのはやめてほしいんだけどなあ」

「ほめてんだぜ、俺は」

惇がニヤニヤ笑う。

「じゃ、そんなほめ言葉はいらないから撤回しなさい」

「やだね」

「元譲!!」

こういうやりとりがしばらく続いた後、惇が言った。

「そういえば、子孝がここにいくらでもいていいって言ってたぜ」

「ホレてんのかしら?」

「…お前な」

惇は呆れ顔だ。

「冗談よ♪」

「もーちょい考えて言え」

「まあ、孫権や劉備は荊州を狙うでしょうね。ここも戦場になるでしょうから、ちょっとでも戦力が欲しいのはわかるけど…でも御生憎様、アタシは体調が回復し次第西に向かうことになってるの」

「ありゃりゃ、それは大変だな」

惇がそう言うと、一人の小姓が料理の器を持って入ってきた。

紗はそれを見るなり、護身用の剣を手に取った。

「そ…それをこっちに持ってこないで!!でないと…斬るわよ!」

惇は不思議そうな顔をしたが、料理をみると、納得したようだった。

「あ…お前はコレが嫌いなんだったな」

それは鶏のあばら骨の入ったスープであった。曹操の大好物である。
しかし、紗にとってはこの世で一番嫌いな食物であった。


曹操の好きなものならなんでも好きだ。
でも、これだけは……どうもガマンできない。

「においですぐにわかったもんっ!」

「これと関羽、どっちがマシなんだ?」

「関羽!!」

紗は即答した。
惇は小姓に命じて料理を下げさせようとした。


…が。


「え〜困りますぅ。コレ曹操様の命令で作っているんですよ。材料の組み合わせだって曹操様の指示によるものなんですから。しかも食べる様子を報告するように言われてるんです…でないとボクの首が飛んじゃいますよ!」

…何ですって!?

紗が絶望したところへ惇が小姓に加勢した。その顔にはからかうような少し意地悪な笑みが浮かんでいた。

「さあ、どうする?愛する孟徳からの直々のプレゼントなんだぜ?こ〜れは食わなきゃなんねえだろ?」

「そうですよ、さあ!」

さあ。

さあ。

小姓&惇の一斉攻撃である。




紗とスープとの死闘(?)の模様は…
読者諸君の想像におまかせすることにしよう。


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